大判例

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東京地方裁判所 昭和43年(レ)41号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕ところで、建物賃借人が、その破損部分を修理して使用することは、賃貸人が通常なすべき修繕義務を代つて履行することに他ならず、その限りで、何ら建物の用方違背とか肯信的な所為に当るものではない。したがつて、被控訴人が本件建物について昭和三三年および昭和四一年にした工事の建物の構造の変更にわたらない各修理工事については、何ら背信性がないことは明白である。もつとも、控訴人が昭和三三年頃になした浴室の改造とこれに伴う台所と六畳間との間の通路開設の工事は厳密な意味で修繕の域を越えているものといわなければならない。しかしながら、前示認定のところからみれば、右改造は本件建物の使用目的たる住居としての用途を変更するものではなく、改造の程度も建物の基本的構造に変更を及ぼすものではない。かえつて前示事実によれば、右浴室改造等の工事は、本件建物を住居として使用する観点からみれば、半ば崩壊した壁は速な撤去を必要としたものであり、その際浴室として使用されず長期間放置されている部分を合わせて台所に転用し、これに伴つて半間の通路を設けたにすぎない程度の工事であつて、むしろ本件建物の効用を増大させているものであり、被控訴人にとつても、右建物部分を居住に適するようにするためには己むを得なかつたものということができる。そうであれば、従前控訴人は建物の修理を賃借人に委ねており、賃借人が工事をすることを厳しく規制していなかつた事情も斟酌すれば、被控訴人の本件での改造行為をもつてしてはいまだ背信性があるものと認めるには足りない。

控訴人は、被控訴人の前示修理、改築の費用が、必要費、有益費として、賃貸人たる控訴人の負担に帰すべきものであるから、本件賃貸借の統制賃料との均衡を失し、控訴人に不当な経済的負担を負わせることになるから、前示修理、改築行為には背信性があると主張する。しかしながら、地代家賃統制令七条一項一号が借家の改良、大修繕をもつて統制賃料額の増額事由としていることからも明らかなとおり、同令は改良工事、大修繕の費用の不均衡を貸主に強制するものではなく、収支の償う途を開いている。また改良、大修繕にわたらない修補について言えば、本件のごとく、建物が昭和一六年頃に建築されていて、地代家賃統制令の適用を受ける結果、控訴人の賃料収入が現在の経済事情にそぐわないものである場合には、賃貸人たる控訴人の建物修繕義務の範囲は、それらの事情を考慮したうえ、通常の修繕義務よりも相当程度に軽減されるべきものである。このことは賃料が建物を使用収益させることの対価であることからみて、衡平上当然の帰結である。したがつて、賃借人たる被控訴人が支出した修補費用は、かくして軽減されてもなお残る控訴人の修繕義務の範囲内においてのみ、はじめて、必要費として償還を請求し得るものと解すべきものであるから、この限度における控訴人がその償還義務を負担することは苛酷な義務を負わしめたものということはできない。もつとも、修繕の範囲をこえ建物の改良のために支出した費用は、有益費として控訴人の負担に帰するものではあるけれども、これは建物の改良による価格の増加が賃貸借終了の時に現存する場合にかぎり、賃貸人である控訴人の選択によつて、費やした金額またはその増価額を償還すべきものであつて、本件の場合、建物が昭和一六年頃の建築にかかり、残存耐用年数はそれほど長くないであろうから、将来の賃貸借終了時における現存増価額の存否数額は必ずしも明らかではないから、にわかに控訴人の主張するような不当な経済的負担となるものとは断定できない。また仮りに増価額が存在するとしても、控訴人はかくして認められる費用償還義務に相当する建物の価格の増加を利得するものであり、しかも費用償還を一時に行うことが困難であれば右履行については相当の期限の許与を請求することもできるのである。したがつて、右諸費用の負担の可能性をもつて、被控訴人の修理改造の施行が背信的であるとはいえない。(渡辺忠之 山本和敏 大内捷司)

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